ほうれい線が気になる、というお悩みでクリニックに来てくださる患者様は、毎日たくさんいらっしゃいます。皆さん開口一番、「ヒアルロン酸を入れたらいいかな?」とおっしゃることが多いです。
ほうれい線があるからヒアルロン酸で埋める——これはシンプルで、とてもわかりやすいプロセスではありますが、本当に選択肢はそれだけでしょうか? 実はそうではありません。
もっと自然で、より美しくほうれい線を目立たなくする方法はないのか。何年もの間、患者様のほうれい線にも、自分自身のほうれい線にも真正面から向き合ってきた私が、その選択肢を余すことなく解説していきます。ぜひ最後までお読みください。
目次

山﨑 香名(オリビアクリニック 院長)
日本美容外科学会正会員(JSAS)
2016年に神戸大学を卒業後、2018年より美容外科医としてのキャリアをスタート。
2021年にはAクリニック銀座院の院長を務め、2025年3月に新橋で自身のクリニックを開業。
脂肪吸引やリフトアップはもちろん、眉下リフトや人中短縮などの切開系、目の下のクマ取りや注入治療も得意とし、脂肪吸引の症例数は5,000件以上、総手術件数は1万件を超える。
20代から70代まで幅広い世代から支持され、リピーター率の高さも特長。
ほうれい線ができる理由は大きく分けて3つ
まずは、ほうれい線ができる原因について解説していきましょう。
年齢を重ね、40代頃になると「急に深くなったなぁ…」と感じる方もいれば、実は写真を見返してみると、小学生くらいの頃からほうれい線があった、というタイプの方もいらっしゃいます。

比較的若い頃からほうれい線があったという患者様の特徴としては、頬骨が高く張り出しているため、骨格上ほうれい線が深く出やすいこと、そしてナゾラビアルファットが多いことが挙げられます。こうしたタイプの方が年齢を重ねると、その脂肪がたるんで下がり、さらにほうれい線が深く、折り畳まれたような印象になっていきます。
一方、若い頃はまったく気にならなかったほうれい線が、急に目立つようになった場合は、ナゾラビアルファットが多くないにしても皮膚とともに下垂していることや、年齢とともにコラーゲンが減少して柔らかくなった肌が、下方向にゆるく弛んでいることが原因となります。
少し珍しいケースとしては、歯科矯正後にほうれい線が深くなったという事例です。出っ歯が引っ込むことでほうれい線が生じることはよくあり、私自身も矯正の中盤に差し掛かった頃、急にほうれい線が深く出現して焦った記憶があります。
つまり、原因は大きく分けて
1. 頬骨の張り出しの強さや歯科矯正による骨格の変化
2. ナゾラビアルファットの影響
3. 中顔面の皮膚のたるみ
この三つです。これらが単独で原因となっている場合もあれば、二つまたは三つすべてが複合している場合も少なくありません。
ほうれい線を消す注入治療のメリットデメリット〜ヒアルロン酸注入〜

まず、「今すぐ、15分後にほうれい線を消したい!」というような手っ取り早い応急処置として考えられるのが注入治療です。欧米では一般的に「フィラー」と呼ばれるもので、基本的な考え方は「溝をとりあえず埋めてあげよう」というものです。ただし、注入には本当にセンスと知識が必要です。注入治療は「骨格」「皮膚のたるみ」「ナゾラビアルファットが多い」の3パターンすべてに効果があります。
時々、他院でほうれい線にヒアルロン酸を注入したものの、その場で効果がよくわからなかったという声を耳にします。線があるからといって、その部分にスーッと注入するだけでは、シワは十分に薄くなりません。鼻翼基部を中心とした凹みを立ち上げるイメージで注入すること、そして口が前に出た印象を与えず、凹みだけを平らに整えることがポイントです。注入量や入れ方には、経験値が非常に重要と言えます。
注入する製剤としては、ヒアルロン酸、グロースファクター(成長因子)、大谷翔平選手が右肘靭帯の治療で使用したことでも知られるPRP(多血小板血漿療法)、そして脂肪注入などがあります。どの製剤にも一長一短があるため、カウンセリングでは詳しく説明し、患者様の好みや美容に対するスタンスを大切にしながら一緒に選んでいます。
まずヒアルロン酸ですが、美容外科に訪れる方なら誰でも知っている非常に有名な製剤です。手軽で比較的安価、施術時間も10分程度で、ほうれい線をきれいに目立たなくできるという長所があります。一方で、どんなに高品質なヒアルロン酸でも、ほうれい線という部位では6か月から長くても1年程度で再び気になってしまうという、持続力に関する短所があります。製剤の種類によっては、さらに持続期間が短い場合もあります。

ヒアルロン酸は、分子が架橋されているか否かでまず分類されます。これは「持ちが良く丈夫かどうか」と考えるとわかりやすいでしょう。非架橋ヒアルロン酸は肌育には非常に優れていますが、ほうれい線を持ち上げて改善するには力不足のため、ほうれい線治療では架橋されたヒアルロン酸を使用します。
韓国やヨーロッパ諸国など、さまざまな企業がヒアルロン酸を製造しており、有名な製品も多数ありますが、私のクリニックでは、最大手で品質に定評のあるアラガン社のヒアルロン酸を採用しています。ヒアルロン酸注入はテクニックはもちろん、安全性に最大限配慮して施術することが求められます。
「ヒアルロン酸で失明した」という話をネットで見て、不安を抱く患者様にも何度もお会いしてきました。これは、血管にヒアルロン酸が入り、塞栓を起こしたことによる事故です。こうした事故は、医師が必ず行うべきアスピレーション(注入前にピストンを軽く引いて血液が逆流しないか確認する動作)、注入中の皮膚の色味の変化の観察、患者様への血管痛の有無の確認、そして施術後のアフターケア(皮膚の色の変化や痛み・かゆみが突然悪化した場合にはすぐ連絡してもらう)によって、基本的には防ぐことが可能です。
そのため、信頼できる医師に任せ、適切なアフターケアを受けられる環境で施術を受けることが大切です。ただし、人間の行為に100%の安全はありません。もしも飛行機事故のような極めて稀なリスクすら避けたい場合は、ヒアルロン酸製剤以外の方法を選択すると良いと思います。
ヒアルロン酸以外の注入製剤の選択肢について〜成長因子、PRP、脂肪注入〜
次に、クリニックによっては取り扱いのない場合も多い「成長因子(グロースファクター)」についてお話しします。グロースファクターはFGFとも呼ばれ、正式には「線維芽細胞増殖因子」といいます。これは、自分自身が本来持っているコラーゲンやヒアルロン酸の生成を促進し、自らの力でシワを埋めていくという治療です。
ただし、何%膨らむかといった細かい調整が難しく、入れすぎは禁物です。非常に深く刻まれたほうれい線には圧倒的な効果を発揮し、私自身も何度か自分で治療している大好きな製剤ですが、医師による濃度調整や匙加減を誤ると、膨らみすぎるトラブルになる可能性があります。個人的におすすめなのは、とても深いシワにまず成長因子を注入してベースを底上げし、その後に別の製剤で細かく調整するという方法です。
2つ目は、PRP(多血小板血漿療法)です。PRPはふわっと自然にシワを改善し、安全性も非常に高い治療法です。ただし、大きな改善効果を得られることは稀で、浅いほうれい線の調整に向いています。再生医療の分野でも注目されており、認可を受けた施設でのみ施術が可能です。

前職時代からPRPの治療効果の高さに惚れ込んでいたため、このたび開業した際にも認可申請を行い、当院でも取り扱うことにしました。PRPは、自分の血管から採血した血液を遠心分離機で処理し、血小板を高濃度に濃縮して作ります。血小板は、小学校の理科でも習うように、傷や怪我の際に集まり、組織の修復を助ける働きを持ちます。この仕組みを応用し、美容分野では小ジワや肌のハリを改善するために用いられています。
PRP単体の作用は穏やかなため、数割のFGF(成長因子)を混ぜて使用するケースがよくありますが、この方法により過剰に膨らみ、特に目の下や額でトラブルとなった有名な事例が数年前に話題になりました。本来、PRPには混ぜ物をすべきではないと考えています。成長因子は成長因子、PRPはPRPと、それぞれを分けて、患者様に分かりやすく説明し提供することが望ましいと思います。
最後に、脂肪注入についてお話しします。脂肪注入とは、体の一部から脂肪を採取し、不足している部分に注入する「脂肪再配置」とも呼ばれる施術です。従来は、クマを取った後の目の下の凹みに対して行うのが一般的でしたが、ほうれい線にも同じように注入することが可能です。自分の脂肪を用いるためアレルギー反応がなく、塞栓のリスクも基本的には低く、さらにコストパフォーマンスも良いことから実は人気のある治療法です。
通常の注入治療は1cc単位で料金が決まることが多いですが、脂肪は自分のものであり、実質「入れ放題」に近い感覚です。深く折り畳まれたほうれい線には特に大きな効果が期待できます。デメリットとしては、脂肪の採取が必要な点です。採取部位は、脚の付け根や太ももの付け根など、他人に気づかれにくく質の良い脂肪が多い部分が選ばれます。脂肪吸引のように大掛かりではなく、採取用に数ccだけ取るため、痛みや内出血、脚の腫れはごくわずかで済みます。
私自身も何度か脂肪を採取して顔に注入していますが、翌日には施術したことを忘れて仕事ができるほど、ダウンタイムは軽いものでした。このように、ヒアルロン酸以外にもさまざまな注入療法があり、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解し、症例経験の豊富な医師に任せることをおすすめします。
コンビネーション治療で消すほうれい線〜糸リフトと注入治療〜
ここからは中級編です。前の章までは、ほうれい線の溝を埋めれば改善するという、即効性のある方法についてお話ししました。
しかし、人間は年齢とともに少しずつ老化し、骨が萎縮することで、地滑りのように脂肪層と皮膚がたるんでしまいます。この点については、以前のコラムで詳しく解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。
つまり、応急処置として溝を埋めるだけでは、毎年少しずつ皮膚がたるみ、ほうれい線自体が深くなっていくため、同じ量の注入では足りなくなるのが普通です。さらに、ヒアルロン酸などは半年から1年で吸収されてなくなるため、注入量は徐々に増えていきます。これが、不自然に注入しすぎた「ヒアル顔」になってしまう大きな原因の一つです。
では、引き算の発想として何をすればよいのでしょうか。鏡の前で皮膚を上に引き上げ、「こうなれば口横のたるみもほうれい線も全部薄くなるのにな…昔はこんな感じだったよね」と思う患者様は非常に多く、カウンセリングでもそのシミュレーションをして見せてくださる方によくお会いします。

そう、これを叶えるのが「糸リフト」や「スレッドリフト」と呼ばれる施術です。詳しくは前回のコラムでも解説していますので、そちらもぜひご覧ください。糸リフトとは、下から上へ向けて皮膚と皮下脂肪の層を“リフト”する治療です。ネット上では「金ドブ」などと揶揄されることもありますが、定期的に続けることで、たるみにくくハリのある肌を確実に作ることができるため、私自身も半年に一度は受けている施術です。
ほうれい線は、糸リフトである程度引き上げて薄くしておき、それでも消えにくい鼻翼基部を中心に注入治療を組み合わせる。このコンビネーションは、とても自然にほうれい線を目立たなく仕上げることができます。笑ったときにも不自然さが出にくいため、当院でも人気の高い組み合わせです。
施術頻度としては、半年に一度のメンテナンスが最も適切です。ダウンタイムは、クリニックの施術方法やドクターの技術、使用する糸の種類などによって異なりますが、当院では比較的その場から腫れにくい糸リフトを採用しているため、直後から人に会っても大きな腫れや違和感が目立つことはほとんどありません。ただし、施術直後は「引き上がりすぎている」と感じるくらいが通常です。そのため、あらかじめその点を見越して引き上げ具合を調整したり、注入量を決めたりすることをおすすめします。
基本的に、現在の糸リフトは“溶ける糸”が主流です。溶けない糸のほうが効果が長いというわけではなく、異物反応によるしこりの原因になったり、感染時の対処が困難になったりとデメリットが多いため、ほとんどのクリニックで採用されていません。溶ける糸は分解される過程で肌にハリを与える作用があるため、結果的に柔らかくなっていた皮膚がしっかりしていくのを実感できます。
また、糸リフトだけでなく、「ショッピングリフト」と呼ばれる短い糸をほうれい線付近のたるみ予防に使用することもあります。ショッピングリフトは“引き上げ”というよりも“引き締め”目的で使われることが多く、中顔面のたるみ毛穴改善や肌のハリ出しにも大きく役立ちます。
糸リフトと注入治療のコンビネーションは、皮下脂肪と皮膚のたるみによって生じるほうれい線に特に効果的です。ただし、顔全体の脂肪が過剰に多い場合は、糸リフトがその重さや重力に負けて効果の持続期間が短くなったり、引き上げ先に脂肪が多くあることで顔幅が広く見えてしまうことがあります。そのため、適応を見極めて治療を選ぶことが重要です。自己判断が外れている場合も多いため、ぜひ一度カウンセリングにお越しください。
足し算と引き算が成功の鍵〜ナゾラビアルファット除去と注入治療〜
この章では、ナゾラビアルファットと呼ばれる、ほうれい線上に多く乗った脂肪によってほうれい線が深くなってしまっている患者様に、おすすめの解決方法をご提案します。
適応となるのは、笑ったときにアンパンマンのように頬が盛り上がり、その影響でほうれい線が深く見えてしまうことを主な悩みとしている方が多いです。

ナゾラビアルファットとは、ほうれい線とゴルゴラインの間に位置する脂肪のことで、頬全体の脂肪であるメーラーファットの一部と定義されています。メーラーファットを一様に大きく取り除いてしまうと、今まで目立たなかったゴルゴラインが出現したり、目の下が削げてクマのように見えてしまうことがあります。そのため、基本的にはナゾラビアルファットを中心に脂肪を減らすことがポイントです。
「脂肪は宝」というお話を患者様から伺うことがありますが、これは本当に時と場合によります。脂肪を取ったら頬がこけてしまうのではないか、という心配は理解できますし、やりすぎは確かにコケの原因となるため避けるべきです。しかし、脂肪が多いと重みによってたるむスピードが早まり、本来脂肪があった部分が減ってしまうことで、逆に「こけた」と感じる方も少なくありません。頬コケはその最たる例です。本当に痩せている人よりも、バッカルファットと呼ばれる脂肪が加齢で下垂し、本来張っていた部分からなくなった場合に、その印象が強く出ることもあります。日々患者様を拝見している中では、余分な脂肪は減らしておいたほうが、高齢になったときの後悔が少ないように感じます。
ナゾラビアルファットを減らし、前章でお話しした糸リフトで引き上げ固定を行うと(さらに、ナゾラリフトと呼ばれる横方向に引く糸も当院では取り扱っており、これを併用するのも人気です)、注入をしなくてもほうれい線が大きく改善することがあります。
ただし、最初の章でもお伝えしたとおり、多くの方のほうれい線は一つの要因だけでなく、二つ、あるいは三つすべての要因が複合している場合が多いです。
例えば、「ナゾラビアルファットが多く、頬骨が張り出し、下顎が小さい骨格で、さらに年齢による全体的なたるみが大きく出ている」といったケースもよくあります。こうした場合には、正しいアセスメントが非常に重要です。理想を言えば、ナゾラビアルファットを減らして引き上げ固定を行い、その後にほうれい線の基部へ注入療法で整え、さらに中顔面がこれ以上たるまないようショッピングリフトで引き締める、といった複合的なアプローチが効果的です。ただし、どこまで施術を行うかは、患者様ご本人の希望や予算によって変わりますので、カウンセリングでしっかりご相談いただければと思います。
まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
最後に、これまで長くお話ししてきた内容を、手短にまとめたいと思います。

今回は、ほうれい線の成り立ちとその解決方法についてお話ししました。
ほうれい線が深くなる原因は、大きく分けて以下の三つです。
1. 骨格(頬骨が張り出しており、下顎が小さい)
2. ナゾラビアルファットが多い
3. 中顔面の脂肪(ナゾラビアルファット)と皮膚が下にたるんでいる
治療方法として、最も簡単かつ即時的に効果が得られるのが「注入」です。注入する製剤としては、代表的なヒアルロン酸のほか、PRP、成長因子、脂肪の4種類が挙げられます。それぞれにメリットとデメリットがあるため、十分に説明を受けたうえで選択することをおすすめします。
たるみの要素が強いタイプの方には、「糸リフトで引き上げてから注入する」というコンビネーション治療が特におすすめです。ただし、脂肪が多く張りが強い方には、この方法が適さない場合もあります。
また、ナゾラビアルファットが多く、笑ったときの頬の盛り上がりによってほうれい線が深くなっているタイプの方には、「ナゾラビアルファット除去」という施術が適応となります。
ほうれい線の原因は一つではなく、複数の要因が組み合わさっていることが多いため、それぞれに合わせて治療方法を組み合わせることで、より自然で美しい仕上がりが可能です。ただし、どの施術も奥が深いため、すべての治療に対応できる信頼できるドクターに依頼することを強くおすすめします。