みなさんこんにちは、オリビアクリニックの院長山﨑香名です。
今回は美容クリニックに行ったことのない方も名前は聞いたことぐらいはある「ボトックス(ボトックスは実はアラガン社の商品名なので、ここから先はボツリヌストキシンと書きます」のみなさんが知らないかもしれない無限の可能性について詳しく話したいと思います。
みなさんが悩んだことがあるものがあるかもしれません。
目次
山﨑 香名(オリビアクリニック 院長)
日本美容外科学会正会員(JSAS)
2016年に神戸大学を卒業後、2018年より美容外科医としてのキャリアをスタート。
2021年にはAクリニック銀座院の院長を務め、2025年3月に新橋で自身のクリニックを開業。
脂肪吸引やリフトアップはもちろん、眉下リフトや人中短縮などの切開系、目の下のクマ取りや注入治療も得意とし、脂肪吸引の症例数は5,000件以上、総手術件数は1万件を超える。
20代から70代まで幅広い世代から支持され、リピーター率の高さも特長。
ボトックスとは一体なんなのか
ボツリヌストキシンは何回かこのコラムにも登場していますが、ボツリヌス菌が産生するタンパク質です。私たちの筋肉は神経の指令で動くのですが、その筋肉と神経の接合部にアセチルコリンという神経伝達物質が放出されます。それをブロックして神経からの命令を伝わりにくくするのがボツリヌストキシンです。つまり、神経が動け!といっても筋肉が動かないというのがボツリヌストキシンの効果なのです。怖く感じるかもしれませんが、正しい位置に適切に注入すると、多大な効果を示します。ただ人間というのはすごいもので、ボツリヌストキシンが効いて狙った筋肉の動きが止まっても、また3、4ヶ月で神経が再生されてくるのでそこで効果が切れてきます。
メンテナンスをしないといけないというデメリットもありますが、永遠にそのままではないので万一効果に不満を感じていたり、効きすぎて不自然さを感じたりしていても数ヶ月で必ず元に戻るというメリットもあります。
厚生労働省もアラガン社のボトックスビスタ®️を承認しており、美容医療以外では多汗症や顔面痙攣、斜頸などの特定の疾患の治療に限定して使用が許可されているため、私も研修医時代に形成外科で10ヶ月トレーニングする中でワキガの治療で保険適応でボトックスを注入するシーンに出会ったことがあります。
基本編 ボトックスで皺を予防、改善する
ボツリヌストキシンで顔のしわが軽減するというのは、最も基本的な使い方でみなさんにも馴染みがあるかと思います。具体的な皺を軽減する場所でいうと、額、眉間、目尻、目の下、バニーライン、鼻根、顎、首になります。

額の波平さんみたいなシワは前頭筋という眉毛を挙げる筋肉で、左右の眉毛を中央に引いて眉間の皺を寄せるのは皺眉筋という筋肉です。
笑った時に目尻に3本筋が出る人や、目の下の2本ぐらいの線がシャっと寄る人は多いですよね。これは眼輪筋という目を閉じるのに使う筋肉の動き皺です。
バニーラインというのは笑ったり顔をしかめらりするときに現れる鼻のよる斜めの線で、鼻筋の動きによるものです。鼻根に横皺が刻まれている人は多いですが、これは鼻根筋によるものです。眉毛を寄せてくださいというと、眉間に皺ができるだけではなく、鼻根部にも皺ができる人はかなり多いです。
顎の梅干し皺は、顎が後退している人の多い日本人では若くして刻まれている人が多いです。これはオトガイ筋という筋肉の動きによるものです。首のしわに注目している人はかなり美意識が高いなあという印象なのですが、広頸筋という大きな首の表面に張り付いた筋肉による縦皺であればネフェルティティボトックス(広頸筋ボトックス)により改善することができます。
これらの皺を作る筋肉(表情筋)にボツリヌストキシンを注入することで、一時的に筋肉の動きを止めることができるので動きによる表情じわを防いだり、すでに深くなっているシワを少し浅くしたりする効果もあります。表情皺というものはいざ刻まれてしまうと、その皺を消そうと思うとかなりお金と時間を要するのでアンチエイジングという観点では皺が刻まれる前に予防するというのが重要になってきます。
表情皺を抑えるという目的ではありませんが、小鼻に注射することで笑った時の小鼻の広がりを抑える鼻翼ボトックスも非常に人気ですし、笑った時に歯茎が見えてしまういわゆるガミーマウスを改善するために上唇鼻翼挙筋に注射するガミーボトックスというものもあります。
口をぎゅっと閉じることでできるカラムーチョのお婆さんみたいな口周りの皺を改善するために口輪筋に軽くボトックスを打つこともあります。これを応用させたのが人中ボトックスです。
年を重ねるたびに人中が伸びてきたという話をする患者様がとても多いのですが、これは実際に合っていて年々口輪筋という口を閉じる筋肉というのは強くなるものです。それによって、口がぎゅっととじられて、唇が薄くなり、人中が伸びて感じるのです。なので口輪筋の上側に打つボトックスが人中ボトックスです。
口角がまるで不機嫌かのようにへの字になっているというのも、若い時より年を重ねると症状として言われることが多くなります。これは口角下制筋が強くなることが原因なので、ここに注射すると自然とにっこりしているような口元を作ることができます。これが口角ボトックスと言われるものです。
以上が美容外科でよくやる顔のボトックスです。あれ、エラボトックスは??マイクロボトックスは?と思った方は続きを読んでください。これらは実は狙っている動きが、この章で説明したものと少し違うと私は捉えています。
中級編 ボトックスで汗をコントロール
この章では汗のコントロールとして広くボツリヌストキシンが使われているお話をします。

脇汗注射として大手で非常に安く韓国製のボツリヌストキシン注射をすることがここ10年ほどで増えているので知っている方も多いかと思います。そもそも、自律神経の交感神経の末端からアセチルコリンという物質が出てそれによって汗腺に「汗を出せ!」という指令が出て汗が出ます。そこを先ほどお話した原理でブロックするのがボツリヌストキシンです。
脇が一番有名ですが、実は手のひらや足の裏、頭皮、髪の毛の生え際、デリケートゾーン(スソボトックスという名称)などにも適応できます。地味にうちのクリニックで人気なのは頭皮です。最近日本の夏は異常に暑いので、髪の毛から汗が額を滴ってきて不快なことが多いですよね。そういう事態を改善してくれるのがこの汗どめ注射です。脇汗がなくなってサラッとすると本当に快適で、服に汗染みができなくなるので、グレーの服を切るのも躊躇いがなくなりますし、傍に汗パッドを入れる手間もなくなります。
よく聞かれる質問として、「脇汗を止めると手汗が増えませんか?」というものが昔からあるのですがそういうことはないのでご安心ください。尿からも排泄されるものなので、手汗だけが増えるということはありません。
一週間後ぐらいから効果が出てきて、3.4ヶ月でまた緩やかに汗をかくようになるのでおすすめとしては5月ぐらいに入れておくとギリギリ夏を乗り切れるかなと思います。最近11月ぐらいまで暑いので年に二回ぐらい入れる人も多く、私自身もそうしています。
応用編 ボトックスでダイエット、痩身効果

この章ではボツリヌストキシンを効かせる筋肉によっては小顔効果、痩身効果が出るというお話をします。前の章までで、ボツリヌストキシンが神経と筋肉の接合部に作用して、筋肉が一時的に働かなることを利用していることはわかっていただけたかと思います。
ここ10年ぐらいでエラボトックスでエラの張りを無くして小顔に見せたり、顎関節症や食いしばりによって歯茎や歯にダメージがいくのを防止したりするのは広く施術されているのでご存知の方も多いでしょう。これは咬筋という奥歯でガッツリ噛むときの使う筋肉に作用しています。噛み合わせや食いしばる癖によって、咬筋が筋トレされて肥大している状態です。ボツリヌストキシンによって必然的に筋トレが終了するようなものなので、筋肉が落ちて痩せますよね。これによって顔が小さく見えます。
同じようにふくらはぎの筋肉や太もも、腕の筋肉に使うことにより筋肉がもりもりしているところには痩身効果があります。特にふくらはぎが人気です。昔部活をやっていたり、バレエをやっていて筋肉が発達しているけど今はもうスポーツをやってないし足を細く華奢にしたいという患者様が多くて、ふくらはぎのボトックスを打ちすぎない程度に打って細くすると非常に満足度が高いです。
今までの章での話だと、ボツリヌストキシン注射の効果は数ヶ月でなくなるということでしたが、このエラやふくらはぎなどの運動に関する筋肉への注射に関しては、4.5ヶ月おきに5.6回注射をすることで完全に元に戻ることはないと言われていますし、実際に自分のエラボトックスに関しても患者様に治療している効果を長期的に見ていても、実感します。コストパフォーマンスがいい施術と言われる理由はここにあります。
超応用編 ボトックスでたるみ引き上げ、小顔効果
この章ではかなり応用編になりますが、ボトックスリフトの話をしていきたいと思います。実は年を重ねるたびに顔を引き下げる筋肉が存在しています。これが広頚筋というものでフェイスラインから鎖骨のあたりまで広がる薄くて大きな筋肉で、フェイスラインや口角を下に引っ張ったり、首の縦皺を深くするというあまり嬉しくない働きをしています。
この筋肉の動きをボツリヌストキシンの注射で止めるのがボトックスリフト(またはネフェルティティリフト、広頚筋ボトックスなどの名前で知られている)というものです。細かく薄い筋肉である広頚筋に注射していきます。筋肉によって引き下げられたところが解除されるので、少し引き上げ効果や小顔効果も狙えることも多く、首の皺にもとても効果があるので美容上級者の知る人ぞ知る施術という感じで大人気です。
ダウンタイムも特にありません。一回の注射の引き上げ効果はマイルドなものではありますが日々加齢とともに下垂していくのが当たり前なのでそれを止めるというのは長期的にみるととても効果のあるものです。
ここでいう首の皺というのは縦の筋のことです。「いーっ」と力を入れると首に筋が何本かできて、鳥っぽくなるのが嫌という患者様も多くいます。また、脂肪吸引で綺麗に脂肪が取れると広頚筋の存在感が目立ってきて気になってくるという人もいます。
番外編 ボトックスで毛穴を小さくする方法
最後に番外編として、ボツリヌストキシンを浅く皮膚に打って毛穴を小さくするスキンボトックス、もしくはマイクロボトックスと言われているものについてお話します。

基本的にボツリヌストキシンは筋肉を狙って注射することが一般的というのは前の章まででお話してきましたが、今回は汗をとめるときと同じように浅く注射して汗腺同様に皮脂腺も抑制します。アセチルコリンという神経伝達物質を抑制するという従来の原理で、皮脂の分泌も抑えられるので皮脂腺が小さくなり鼻が一回り小さくなったり、鼻から出る皮脂の低下によって毛穴が小さくなったりします。
もちろん鼻以外の場所、つまり顔全体に皮脂腺や汗腺はあるので、必要に応じて注射すると気になる毛穴が小さくなって脂性肌の人は一回り顔が小さくなる感覚が得られたり、毛穴が小さくなってニキビができづらくなる効果が得られます。皮脂腺が抑えられると、毛穴の黒ずみの軽減することが多いので肌悩みが色々ある方にもぜひ相談していただけばと思います。
まとめ
今回はボツリヌストキシンの無限の可能性ということで実にさまざまな使い方を紹介してきました。ボトックスという名前は一人歩きしていて、何も美容への知識のないその辺のお爺さんでも知っていたりして美容外科や美容皮膚科のゲート治療として初心者の方が軽く受ける施術という認識だと思いますが、実は奥が深いものです。ボトックスを失敗されて、という話もよく聞きますがこれもドクターがボトックス注射ぐらいなら簡単だという誤った認識を持ってあまり知識のない一般の保険診療の開業医が片手間に打ったり、美容外科や美容皮膚科の新人が打ったりすることにも原因があると思います。ボトックスは確かに手軽で治療効果も大きいものですが、解剖学の知識や症例数が豊富なドクターでないとコケや不自然な表情などQOLを下げる結果にもなってしまいます。
この8年で年間1200件以上のボトックスを毎年担当し、ずっと経過を見ている患者様が多いのでさまざまな希望や筋肉のつき方の微妙な個人差などを確認しながら施術にあたっています。外科施術との組み合わせ、ヒアルロン酸などの注入治療との組み合わせでの効果の変化もあるので、気になるものがある方はぜひお気軽にカウンセリングにお越しください、お待ちしてます。
